はじめに
競馬の馬券戦略を考えるとき、オッズの構造を理解することは非常に重要です。この記事では、単勝と馬単総流しの関係性を数学的に分析し、そこから導かれる2つの戦略について論じます。
合成オッズとは
複数の馬券を組み合わせて買う場合、その全体としての期待リターンを「合成オッズ」で表すことができます。
計算方法
どの馬券が当たっても払戻金額が同じになるように賭け金を配分したとき、
ここで
具体例
3つの馬券(オッズ 2.0倍、4.0倍、5.0倍)を均等払戻で買う場合:
| 馬券 | オッズ | 払戻1000円に必要な投資 |
|---|---|---|
| A | 2.0倍 | 500円 |
| B | 4.0倍 | 250円 |
| C | 5.0倍 | 200円 |
| 合計 | 950円 |
あるいは公式を使って、
単勝と馬単総流しは理論上等価
ここで重要な事実があります。
軸馬Aの単勝を買う場合
- 的中条件:Aが1着
馬単A固定総流しを買う場合
- A-B、A-C、A-D… とAを1着に固定して全通り購入
- 的中条件:Aが1着(2着は何でもよい)
両者の 的中条件は完全に一致 します。
同じ確率で当たる賭けが異なるオッズを持っていたら、高い方を買えば得をします。これはアービトラージ(裁定取引)です。したがって、効率的な市場では両者の期待値は等しくなるはずです。
実データで検証
実際のレースで検証してみました。ある馬の単勝オッズは 19.8倍 でした。
この馬を軸に馬単総流し(15通り)を買った場合のオッズは以下の通り:
| 組み合わせ | オッズ | 逆数 |
|---|---|---|
| 1 | 388.8 | 0.002572 |
| 2 | 229.1 | 0.004365 |
| 3 | 121.5 | 0.008230 |
| 4 | 1397.2 | 0.000716 |
| 5 | 130.2 | 0.007680 |
| 6 | 1345.2 | 0.000743 |
| 7 | 2469.7 | 0.000405 |
| 8 | 1357.6 | 0.000737 |
| 9 | 931.8 | 0.001073 |
| 10 | 191.0 | 0.005236 |
| 11 | 102.0 | 0.009804 |
| 12 | 252.5 | 0.003960 |
| 13 | 800.4 | 0.001249 |
| 14 | 546.3 | 0.001831 |
| 15 | 446.5 | 0.002240 |
| 合計 | 0.050841 |
比較結果
| 買い方 | オッズ |
|---|---|
| 単勝 | 19.8倍 |
| 馬単総流し合成 | 19.67倍 |
差はわずか0.13倍(約0.7%)です。
単勝の方がわずかに有利なのは、控除率の違いで説明できます:
- 単勝:20%
- 馬単:22.5%
理論通り、ほぼ等価であることが確認できました。
「除外」による合成オッズの改善
ここからが本題です。
馬単総流しから「絶対に来ない」と思う組み合わせを除外するとどうなるでしょうか。
高オッズ(大穴)を2つ除外した場合
オッズ上位2つ(2469.7倍と1397.2倍)を除外:
低オッズ(人気組)を1つ除外した場合
最低オッズ(102.0倍)を除外:
除外効果の比較
| 除外対象 | 除外数 | 合成オッズ | 変化 |
|---|---|---|---|
| なし | 0 | 19.67倍 | - |
| 高オッズ2つ | 2 | 20.11倍 | +2.2% |
| 低オッズ1つ | 1 | 24.37倍 | +23.9% |
低オッズの除外は、高オッズの除外より圧倒的にインパクトが大きい。
これは数学的に当然です。合成オッズは「逆数の和」で決まるため、オッズが低い(=逆数が大きい)馬券を除外するほど、合成オッズは大きく改善します。
2つの戦略
この分析から、馬単における2つのアプローチが見えてきます。
戦略A:来る馬を当てる(ポジティブセレクション)
「2着に来そうな馬」を選んで買う従来の方法。
特徴
- 点数を絞れる(資金効率が良い)
- 予想が外れると完全不的中
- 必要能力:2着候補を正しく選ぶ力
戦略B:来ない馬を外す(ネガティブセレクション)
「2着に来なさそうな馬」を除外し、残りを総流しで買う方法。
特徴
- 総流しベースなので「想定外の2着」をカバー
- 点数は多くなりがち
- 必要能力:2着に来ない馬を見抜く力
戦略Bの優位性
「来ない馬を外す」戦略には独特の優位性があります。
1. 非対称なリスクリワード
| 除外対象 | リスク | リターン |
|---|---|---|
| 人気薄(高オッズ) | 小さい | 小さい |
| 人気馬(低オッズ) | 大きい | 大きい |
人気薄を外すリスクは小さく、人気馬を外せた時のリターンは大きい。
2. 判断の非対称性
「この馬は2着に来る」と断言するより、「この馬は2着に来ない」と判断する方が容易な場合があります。
- 展開的に来られない(逃げ馬多数時の追込馬など)
- 力関係で明らかに劣る
- 枠順や馬場状態が不利
3. 保険機能
総流しがベースなので、予想外の馬が2着に来ても的中します。完全な予想外れを防げる安心感があります。
実践上の問い
この戦略を使うには、以下を検討する必要があります:
-
何頭まで除外するか
- 除外しすぎると保険の意味がなくなる
- 人気馬を1〜2頭外せれば十分効果的
-
どの馬を除外すべきか
- 展開予想に基づく除外
- 過去成績からの除外
- 当日の馬体・気配からの除外
-
単勝と馬単どちらを選ぶか
- 除外に自信がない → 単勝(控除率で有利)
- 除外に自信がある → 馬単で合成オッズ向上
まとめ
- 単勝と馬単総流しは、的中条件が同じなので理論上等価
- 実データでもほぼ一致することを確認(差は控除率の違い程度)
- 総流しから組み合わせを除外すると合成オッズが改善
- 特に低オッズ(人気組)の除外は効果が大きい
- 「来る馬を当てる」より「来ない馬を外す」方が有利な場合がある
次回は、この戦略を実際のレースでシミュレーションし、有効性を検証してみたいと思います。
注意: この記事は競馬の馬券購入を推奨するものではありません。馬券購入は自己責任でお願いします。